:ということは、距離の壁を超えてお手伝いできるという拙者の特技は、先生のいらっしゃる場所でも存分に生かしてもらえるチャンスでござるね!拙者もまだまだ頑張るでござる。それはさておき、開発者・弁理士として、長年にわたり技術力の躍進を見守ってきた岡村先生が最近日本の技術力にちょっとだけ不安を抱く場面があったようでござる。2つの実体験について、お話を伺ったでござるよ!

技術力の低下を危惧するきっかけとなった、2つの実体験

白坂:そうなんですね。機械・電気系のお客様が多いと伺いましたが、今の日本の技術力という観点について、特に技術に関わる弁理士として今どういうことを感じておられますか?

岡村:端的に言ってやはり日本という国は技術力でここまできた側面が大きいと思います。ですので、そこは大切にしてほしいと常々思っているのですが、少し心配になるような出来事がありました。些細なことと思われるかも知れませんが、ある筆記具メーカーのシャープペンシルを購入して使い始めたら持ち手の部分の塗料がすぐに全部剥がれてしまったんです。そのメーカーは日本の名だたるグループの系列企業です。にもかかわらず、購入して数週間ぐらいでその塗料が剥がれてくるというのは、日本の工業製品としていかがなものかと思ったんです。怒りということではなくて、憂いというか、危惧というか。

:ひとつめは「シャープペンシル」の塗装に関するエピソードでござるね。こうした例がどれだけあるのかは定かでないでござるが、実際に購入した人がそういった場面に遭遇してがっかりしてしまうのは、ちょっと悲しいでござるね。

岡村:ただそれは一端であって。他にも私共の事務所で社用車として使っている小型車があるのですけれども、走行している時に、エンジンのプーリーがちぎれて飛んだんです。実際、私の運転が荒すぎたのかもしれないのですが(笑)。でもそういう事例を見るにつれ、技術力こそ世界に誇れるものだったはずなのに、普通の人が触れるところにまで、「ちょっと大丈夫なのか?」と思わせるような事例がたくさん出てくるようだと、技術力が落ちてきているのではないかなと。そういう心配はあります。

:なるほど。ふたつ目のエピソードは車に関する事例でござるね。筆記具、車のどちらも日本を代表する産業であるだけに、先生がそうした不安を抱いてしまうのも無理はないかもしれないでござるね。少し厳しい視点かもしれないでござるが、ちょっと悔しいでござるね!

白坂:先生の身近な中でも、「日本の技術力、大丈夫かな」と不安になる要素がいくつか出てきていると。

岡村:応援する立場として、もっともっと頑張ってほしいと思っています。

白坂:例えば筆記具とか、自動車にしても部品が「メイドインチャイナ」というものもどうしても増えてきていますよね。

岡村:そうですね。あえて「メイドインジャパン」とは言わずに、日本製品「ジャパンプロダクツ」と言いたいと思いますが、グローバルに部品調達するというのは当たり前になっている現状において、塗料がなじまなくて剥がれてくるというのは、どこの国で作るからということではなくて、基本的な化学の知見であったり、プーリーの例であれば、基本的な機械設計であったり、ということだと思うのです。

白坂:逆に中国とかは先生から見てどうですか?特許業界の中で、中国の技術力がグイグイ来ている感じでしょうか?

岡村:まだ模倣も少なくはないと思います。ただキャッチアップされていると思いますし、分野によっては日本を超えているものも多くありますから。もう上だ下だという話ではなくて、強力なコンペティターとして対峙していくべきじゃないかと日頃感じます。

白坂:なるほどなるほど。技術力という観点と、知財力という観点でいくと、最近の中国の知財力は先生から見てどんな印象がありますか?

岡村:出願数が桁違いですね。やはりその時点で既に負けている要素があり、中国企業の知財の牽制効果を日本企業が受ける場面が多くなっています。実際にお客様とお話をしていて、そういうご相談が増えています。

:日本の工学・技術に対して思い入れがある岡村先生だからこそ気づけた事例なのかもしれないでござるな。岡村先生は信州大学で工学部の学生を相手に教鞭をとられているでござるが、学生たちにはどんな思いで授業を行っていらっしゃるのでござるか?その辺りを詳しく聞いてみたでござる!

工学の意義とは?

これからの技術者に大切にして欲しい事
誇りを持って「人を幸せにする製品」を届けてほしい

白坂:なるほど。先生の中で、技術、特に工学の意義について普段どう考えて一らっしゃいますか?

岡村:あくまでも私自身の私見として、工学というのは人を幸せにするための学問だという風に工学部の学生には話しています、講義の時には。

白坂:そういう風に思うようになったきっかけは何だったんでしょうか?

岡村:NHKの「プロジェクトX」という番組がありますが、その中で、自動車会社のスバルを扱っている回があって、それを見たのです。日本の国産自動車の黎明期は外国からの輸入車ばかりで、庶民が買えないような高嶺の花だったんですね。そこで、元々中島飛行機のエンジニアだった百瀬さんという方を中心に、中島から富士重工の系譜の中で、飛行機が作れないから自動車を作るということで「家族4人が乗れて、遠くまで出かけても壊れない、誰もが買えるような価格の自動車を作ろう」ということで困難な開発に取り組んだ、というストーリーです。心に残ったのは、その車を手に入れることができた人達がとても幸せそうだったことです。

:これも意外なエピソードでござるね。先生がご紹介下さったこの事例は、家族4人が乗れて、遠くまで出かけても壊れない車の発明が、誰もが買える金額で供給できるようになったことで一般の人の生活に豊かさをもたらした素敵な事例でござるね!

岡村:ものづくりというのはもちろん企業として利益を追求してはいけないとか、そういうことではなくて、その企業が生み出す製品を手にした人達に幸せを感じてもらえる、そこが一番大事なのではないのかなと思うきっかけになった話ではあります。いくらたくさん販売して会社の利益が上がったとしても、先程の例のように、すぐに塗料が剥がれてくるような製品を購入したとなると、幸せな気持ちにはならないですよね。白坂先生はどう思われますか?工学の意義について。

:ここで岡村先生から白坂CEOに逆質問!白坂CEOが考える「工学の意義」とは?

白坂:僕も同じことを思っています。AI Samuraiでは人間とAIの共創世界を実現したいと考えているんですけど、やっぱり猿からの進化って工学とか技術とか発明かなと思っています。岡村先生は「幸せ」という言葉で説明されましたけど、僕はちょっと違う言葉でいうと「欲望」なのかなと考えています。欲を満たすものという意味での幸せなのかなと思うところもあります。似てる部分もあるのかなって僕なんかはちょっと思ったり。欲望というのは1人のものというイメージが強いのかなと思っていて、幸せというのは他の人にも分け与えるようなイメージかなと。ちょっと近いですよね。自分が幸せだと結構周りも幸せなことも多いので。

岡村:そうですね。だからそういう思いで教えています。工学部の学生は概ね技術職として仕事をしていく人が多いでしょうから。そういう思いを持って、もの作りをしてほしいと思っています。

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