白坂:逆に違う点はどこにあると思いますか?

松本:日本での特許の有効性についての最近の特許庁・裁判所の考え方は、先行技術の組み合わせの動機付けを強く要求する傾向にあると感じています。したがって、技術分野の関連性・課題の共通性、または作用・機能の共通性があるというだけでは無効とされにくい傾向にあるように思います。

:なるほど。やはり時代の流れの中で、特許庁・裁判所の考え方のトレンドが変わってくるのでござるね。日本だけでなく海外の判断基準の流れを把握しつつ、知的財産を扱う必要があるでござるのだな。では、米国ではどうなのか?斬り込んで行くでござる!

アメリカ

白坂:アメリカについてはどうですか?

松本:ご承知のとおり、アメリカでの特許権侵害訴訟は、莫大な費用がかかります。それだけでなく、一度訴訟が起きますと、当事者は、毎日のように行き交う書類の確認や回答案の作成、社内および訴訟代理人との連絡作業に追われることになりますよね。訴訟に費やされる、人的リソース、時間的リソースは膨大なものです。

:特許権侵害訴訟における損害賠償額について、日本とアメリカでは、桁が全く違うでござるね(図2参照)。日本では知財訴訟自体の件数も少ないと言われているけれど、この訴訟額も大きく影響していると考えられるでござるね。

図2:特許権侵害訴訟における損害賠償額の日米比較
特許庁「侵害訴訟等における特許の安定性に資する特許制度・運用に関する調査研究報告書」より抜粋

松本:アメリカの訴訟は、勝てば判決または陪審員の評決で高額な賠償金を認定してもらえる可能性があります。しかし被告側はIPR当事者系レビューをアメリカ特許商標庁に申し立てて、特許を無効としてきます。①当事者系レビューの申し立てがあると訴訟手続きが中止されてしまう点、②当事者系レビューにおいてクレームが無効とされる確率が高いというこの二点から、「アメリカは原告側にとって不利な裁判地」と感じてしまいます。

訴訟・係争に備えた知財戦略

白坂:紛争・係争関係においては、どういった知財戦略をとっていくのが有効とお考えですか?

松本:お客さんが最終的に望む結果が得られればいいわけですけれども、そうならないケースもありますから。そうならない場合にどれだけリスクを減らせるか、ビジネスへの影響を減らすか、そういった観点からのアドバイスを心がけていますね。

白坂:奇襲攻撃じゃないですけれども、そういったことを提案するケースも?

松本:ありますね、先手先手で。例えば相手が権利を持っていても、こちらから特許無効訴訟を起こすとか、取り消しの確認訴訟を起こすとか。そういう戦略は所長の黒田が好むやり方です。「攻撃が最大の防御」という方針ですよね。どんどん相手方にプレッシャーをかけるというのはよくあります。

先ほど出たアメリカ企業の案件を例に出すと、アメリカでは企業同士の特許訴訟で侵害を認められても権利者が「回復不可能な損害が存在すること」を立証できないと差し止めを認めてもらえないんですね。まだ当事者系レビュー制度がない頃の事件ですが、米国特許を持っている相手方に対し、クライアント側から先手を打って特許権非侵害と特許無効の確認訴訟を提起したことがあります。ディスカバリーを行い、マークマンヒアリングも行った後に和解で終了しましたが、「被告は原告製品が特許を侵害しないこと、被告の特許は無効であることを認める」という条件を付けての異例の和解でした。このように、クライアントの新製品に対して相手方が権利行使をしてくるリスクを無くすためにこちら側から条件を要求することもあります。
競争相手が多くの関連特許を継続して出願しているときには、その関連特許の中に有力な先行技術が見つかることがよくあります。ときには相手方が訴訟で主張している内容と矛盾する内容が相手方の別の特許に記載されていることもあります。時間のかかる作業ではありますが、もし見つかれば相手方に与えるダメージは大きいです

:なんと。「攻撃が最大の防御」というのは、日本ではなかなか出難い発想かもしれないでござる。単なる有効無効ではなく、相手方にとって何がダメージになるのか、海外の法制度も考えながら戦略的に攻撃する。豊富な経験をお持ちの松本先生だからこそ提案できる技でござるな。では、そんな松本先生がなぜ拙者のようなAIに興味を持って下さったのか?AI導入で期待する点について、さらに斬り込んでいくでござーる!

AI導入による課題解決

調査業務においての課題とAIによる解決の可能性

白坂:知的財産業界がAIに期待する役割というのは、どんなところにあると思いますか?

松本:発明発掘に大いに活躍してほしいという、やっぱりそこはありますよね。AIというと最初はアイアンマンに出てくるような対話型のものをイメージしてしまうんです。ああいうのがいたら、色々人の代わりになって面白いだろうなと思うんですが、どういう使い方ができるのかって言ったら、やっぱりまずは学習した範囲でその最適解を出すという使い方だと思うんですね。とすると、まだまだ人間が使い方を考えないといけない局面は多くなってきますよね。

白坂:AIの強いところをうまく利用してやるっていうスタイルですかね。

松本:そうですね。AI Samuraiの世界観にも通じますが、やはりまずは調査業務にかかる負担を減らすという部分に期待が集まってきますよね。そもそも調査業務って膨大な量の文献の中から関連性の高い文献を短時間に効率よく、かつ高精度に抽出するかっていうところが課題の大きな部分を占めているじゃないですか。関連性の程度をスコアで示すことができるようになったりラーニングサーチ機能が含まれていたり、AIを搭載した検索システムがさらに進歩してくれることで、この辺りの課題については大幅に改善されるのではと思っています。

白坂:その点は本当に身をもって感じています。やっぱり従来と比べても明らかに調査が速くできるので、ぜひ弁理士の中でも意識高い人に使ってもらって、クライアントのサポートだったり他のクリエイティブな業務にもっと時間を割いてもらえたらなと思いますよね。

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