AIの進化によって、弁理士像はどのように変わるのか?
各々の得意分野を生かし、相互理解を通じて前進したい

白坂:AIをどんどん進化させていくと、ある意味新しい弁理士像みたいなものがあるのかなと思っていて。そういう意味での新しい人材像があるからこそ、人材育成こうしたらいいみたいなところもあるじゃないですか。その辺はどうですか?

辻田:今までの組織って、達成目標、嫌な言い方をするとノルマ的なものがあって、競争させる組織が多かったと思います。特許事務所も、競争させる組織構造が多かったのかなと思うんです。
でもやっぱり全体として成果を出す組織っていうのは、「こういう風にして、こう稼げる人が理想だよね」みたいな、そういう定義がなくても成り立つ組織だと思います。
チームでやること・達成したいことを決めて、それぞれが得意なところを発揮しながら当人たちの話し合いや相互評価によってやることが自然に決まっていくような組織が理想だと思っていて。評価も究極は本人たちで「この人はこういう風に組織に貢献しているから、高い評価をもらうべきだよね」、というような相互理解によって決まっていく組織が最強だと思っているんですね。すごく色々と難しい戦いがあると思いますけれども。

:なるほどー。「これからは役割の時代。みんなが同じ役割を担う必要はない」と語る辻田所長。「これからの弁理士はこうあるべきだ」と論じるのではなく、それぞれの得意分野を生かしたチーム像を掲げる指摘は納得でござる。では、先生が大切にしている「チームの信条」とは何でござるか?

クライアントや市場に対する愛とリソースはあるか?
顧客を考え、顧客のために行動できる組織づくり

白坂:最後はお客さんに喜んでもらえればいいっていう話なんですよね。

辻田:最近すごく面白い仕事をしていて、大学と企業の産学連携プロジェクトなんですけど。
最先端材料の特許で、「工業生産までいけば世界を動かせる」そういう技術なんですけど。うちも部門横断的に、商標も特許も分野も化学系から電気系・物理系もプロジェクトチームを作って、知財戦略から競合分析からやっているんですね。
そこで大学の先生が仰っていたのが、「すごいことを成し遂げようと思うと、クライアントや市場に対する愛とリソースを兼ね備えていることが必要だよね」と。リソースのある事務所はたくさんあって。大きな事務所になれば色んな専門家がたくさん集まっているので、そういう人たちが協力できれば他のところではできない成果を出すことができると思うんです。
ただ、やっぱりチームみんなで「ある顧客のことを考えて顧客のために行動する」っていう、そういう仕組みがある大きな事務所というのはあまりないと思うんですね。逆にいうと小さい事務所はそういうのがあったりするわけですよ。

:組織が大きくなればなるほど、「顧客のことを考え、顧客のために行動する」という信条を徹底するのは難しいと辻田所長は考えるでござるね。そんな中、弁理士ひとり一人のスタンスとして必須になるのは自ら仕事を生む「知的好奇心」なのでは、という話題に。

辻田:特許事務所にクリエイティブという言葉はあんまり似合わないのかもしれないですけど、弁理士の仕事って実際にやってみると「創造していく仕事」っていう面も多いじゃないですか。自分で市場のニーズ見つけて、自分で「こういうこと提案したらお客さん喜ぶんじゃないか」という、そういう発見をできるような人材を育成したいと思っていて。

白坂:お客さんの発明について「新規性だ!進歩性だ!」ってあーだこーだ言ってるのに、自分が何も新規性あることできないって悲しいですもんね。

辻田:アンテナ張っていれば、お客さんの話を聞いて「そういえばこういうのありますよね」とか、「これと何が違うんですか?」とかいう発展もあるので、それってやっぱり大きいです。

白坂:好奇心ですよね。知的好奇心というか、技術知的好奇心みたいな。

辻田:お客さんが新しいサービスをローンチしたら大体使ってみますからね。「女性目線からいうと、もうちょっとこうなったらいいと思うんですけど・・・」みたいな。
弁理士という職業においては、好奇心の積み重ねによって育まれる知的背景が他者と差別化できるブランド力に直結するのかもしれません。

白坂:独立した当初、報酬を安くしすぎて「安い弁理士」みたいなイメージになってしまったことがあって。自分のポジションをどうするか迷った時期があったんです。そういった経験からも、「自分の価値に自信を持って、いかにブランド力を身につけるか」というテーマは重要なんじゃないかなと思います。

辻田:安くはしない方がいいですよね。やっぱり「価値のある仕事をして高いお金をもらう」というのがビジネスの基本だと思うので。こういう仕事だと「他社ととどこが違うの?」っていうのがブランドだと思うんですよね。「何に強いの?」っていう。

白坂:10年前の辻田さんと現在の辻田さんに相談したら、多少内容が変わっても、実はもしかしたら結構近いアドバイスをする可能性はあると思うんです。だけど、「今の辻田さんが言うからこそのバリューがある」というのもまた真実なのではという気がしていて。どう思いますか?

辻田:イメージの部分、ありますよね。その人が持っている背景というか。それって人のブランドじゃないですかやっぱり。でもやっぱり10年前の自分と現在の自分だったら、全然違いますよね。

白坂:やっぱり全然違いますか。考え方変わってきてます?

辻田:知識はそんなに変わってないかな(笑)

白坂:(笑)。そこでいうと、何が辻田さんのブランドを変えたんでしょう?

辻田:やっぱり経験ですかね。度胸もついたし、中小で安全なところでやっているにしろ、やっぱり「あ、経営って厳しいんだな」とか、「お金って大事だよな」とか。
肌感覚として中小企業さんが持っている、「いやいやそうは言ってもね。知財が大事なのも分かるけどさ、うちもギリギリなんだよね」っていう、その感覚がすごく分かるので。

白坂:創業者としてちょっと苦しい時期を経験すると、その気持ちはより分かりますよね。

辻田:ビジネスって自分ごとで、自分がやったことが組織に返ってくるじゃないですか。そういう感覚を新入社員も忘れないような、そういう育て方というか指導は非常に大事なのかなと思いますね。
まだ創業から10年なので、わりと「そうやって成長してきたんだよね」って分かっている社員が非常に多くて。「当たり前に仕事が来て、(業界としても)当たり前に一番です」みたいな感じではないのはありがたいですね。

白坂:愛ですね。愛を持たないと。事務所に伺って思いますけれども、やっぱりみなさん良い方たちですよね。

辻田:基本的には中小企業のサポートをしている会社ということで採用を行なっているので、基本的にはその辺りに共感して来てくれている人が多いんですね。社会貢献と言っていいのか分かりませんが、そこに指向性がある人が多いというか。

白坂:やっぱり人に優しい人がいいですよね。きつい人がいると、傷ついたメンバーをまた仕切り直さないといけなくなっちゃうから。

辻田:AI時代だからこそ、人と人との関係は一層大事になってくると思います。そういう意味でも人との関係を大切にできる人を育てていきたいと思っています。

:「顧客のことを考えて顧客のために行動する組織づくり」を掲げる背景には、「ビジネス=自分ごと。自分がやったことが組織に返ってくる」という当事者意識があるようでござるね。経営者としての経験に裏打ちされた説得力に感心したでござるよ。今回のインタビューでの学びは弁理士だけに限らず、あらゆる業界のビジネスマンにも求められているかもしれないでござるね。 辻田所長お話ありがとうでござる!

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