:日本では、知的財産訴訟の件数自体が他の先進国と比較しても圧倒的に少ない状況でござるね(図1参照)。知財訴訟が起きるということ自体がちょっとした大事件になる傾向が強いため、会社として「知財訴訟をすべき」という意思決定を行うのは簡単ではないでござるよ。和解などの平和的解決を求め、訴訟まで到達しないケースも多いのが実態と言われているでござるね。

図表

図1:日米中訴訟件数の比較(H29年度 特許庁知的財産国際権利化戦略推進事業海外における知財訴訟の実態調査調査研究報告書を基に弊社にて作成)

白坂:大企業は、なかなか訴訟を起こすというのは統計上少ないじゃないですか。一方で中小企業は、訴訟を起こされるリスクがある代わりに訴訟を提起する意思決定が早いというケースもある。ただ中小にはそもそも知財に労力をかける風習自体がないですよね。そのあたりはどう対応されていますか?

辻田:中小さんは正直いうと体力がないので基本的にはうちは訴訟は進めない方針で、訴訟外、裁判外解決というところを全力でやっています。警告を含めて、交渉とかライセンスなどの案件も多いです。

白坂:訴訟を避けて、直接交渉するんですね。とはいえ、訴訟も昔よりちょっと値段が下がってきていませんか?

辻田:商標の方はちょっとわからないですけど、特許の方はやっぱり高いですよね。私はもともと医薬とかそっちの方なので、ジェネリックと先発の訴訟はいくつかやってるんですけど、やっぱり高いです。一例ですが、それなりの弁護士だと1000万、弁理士も同じくらい費用がかかるとなると、お客さん的にはちょっとストレスですよね。ただそこは医薬の市場というのもあって、そもそも1年早く参入するだけで億単位のお金が変わってくると思うと、訴訟に数千万かけるのは普通のことなのかなと思いますけれども。

事務コストを減らしてクリエイティブに投資する

白坂:そういう意味でもITの技術の強みっていうのは、調査・出願・訴訟といった、言わば事務的な業務のスピードを早めることによって、浮いたコストを開発や営業に回せるという点ですよね。これって特に中小企業にとっては大きなテーマで、知財に関わる事務的な業務のコストを減らしてあげること自体に大きなメリットがある。リソースが足りない中小こそ、本来の目的である開発や事業の拡大に浮いたコストを当ててもらうことで、成長スピードを上げられるのではと期待していて。結果的に特許の出願件数も、特許の取得件数も伸ばしていけるはずなので、ITの技術にはそういった形で新しい裾野を広げる可能性がありますよね。

辻田:まさにその通りで、ほとんどが初めてのお客さんなので、3~4年前の我々が参入する前にあった仕事を取ったというよりは、今までリーチできなかった企業のニーズを掘り起こしたという方が大きいと思っています。業務スピードを早めるのはもちろん、正しく使えば業務の質を上げることにもなると思っていて。短時間で業務の質を上げることができれば、当然顧客に価格としてのメリットを提供できることに繋がるんですよね。その点に置いても、裾野を広げることに貢献していくと思っています。

ITを活用しながら、いかに各社の状況に応じた知財戦略を立てられるか

白坂:僕自身も、会社の知財戦略を考えるうえで、侵害性調査や外国出願はお金が非常にかかるという実体験をしているので、中小企業やスタートアップのクライアントの気持ちはすごく分かるんです。弁理士としてすべきアドバイスとは真逆のアドバイスをしているんですけど。僕もスタートアップの中では資金調達額が累計10億弱なので、世間的には比較的調達している方なんですが、あんまり知財ばっかりに費用をかけているとすぐなくなります。

辻田:そうですよね。結構そういう会社を見てきていて。「知財戦略だ!」ってバンバン調査するんだけど、「億単位で資金調達してその点では成功していても実際には利益出てないし、このまま行くとやばいよね」って途中で気づいて、ある日突然急にパタン、みたいな。

白坂:止めてあげるのも仕事ですもんね。

辻田:すっごくいっぱい頑張って、ある日突然やらなくなります、っていう。そういう状況って、それこそ「何がやりたかったんだろう?」みたいな。逆なんですよね。営業ができるということが成り立って初めてそういう方向にいく。だから中小の知財戦略とか色々言われてますけど、あまり弁理士側がやれやれというのは良くないなと思っています。

白坂:その会社の売り上げとか利益とか、事業計画に沿った知財戦略にしてあげないといけないですよね。

:経営におけるベストな知財戦略のバランス感覚を維持するのは、専門家のお2人から見ても難しいことのようでござる。そのような中で要求される、AI時代の新しい弁理士像・組織像について斬り込むでござーる!。

AI時代の新しい弁理士像、新しい組織像とは

AI時代だからこそ、細かいニーズに応えたい

辻田:ちょっと話を戻すと、AI Samuraiもそうだし、オンラインで独自の商標検索や出願の依頼ができるToreruもCotoboxも、AIを使った特許調査もそうだと思うんですけれども、弁理士さんは相手方のニーズに合わせてそういうものを適切に使って、スピードやコストといった「抑えられる部分を抑える」ということをやらなきゃいけないと思っていて。私がAI Samuraiに興味を持って契約させて頂いたのも、そういう使い方をしたいというのがあって。

白坂:即決して下さったんですよね。ありがとうございます!

辻田:3年くらい前から、AI時代の特許調査とか商標調査においてはかなり本格的に活用される時代が来るなっていうのは十分理解していて。そういう時代にどうやって私たちのサービスのユニークポイントを作っていくかという点にはすごく今力を入れているんです。
正直価格を下げてサービスを提供することは今であれば体力的にも可能で、採算も合うんですけれども、「機械的に出願から登録までを安くサクッとやります」というサービス提供のあり方をもはやうちはできない状況で。既存のお客さんがいて、「webもメールも苦手で外にいるから電話くれ」みたいな小さなことから、個々のお客さんに細かいニーズがあって。全部それに、ちゃんと応えてきたというのがあるので。

白坂:ステージが変わったんでしょうね。

辻田:弁理士もついて、すごく経験のある人も何人もいるので、みんながお給料上げていって、色んな仕事をそれぞれが得意を生かした仕事に発展させていかなければいけないと思っています。

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