裁判になっても戦える戦略を。
要点を押さえ、確実に権利化する「出願の質」で勝負

溝田:今までの日本の特許戦略って、けっこう件数で押し切るみたいなところはあったと思うんですね。とにかく件数を出す。もちろん中身も追求するんだけど、件数が大事だと。特許を売買するにしても「ポートフォリオを売買する」というような発想ですよね。Nortel Networksが潰れたときに、4000件の特許をAppleを代表とする企業連合Rockstarが確か45億ドルぐらいで落札したんですけど。それに代表されるように、ポートフォリオがすごく評価されていて。
件数が大事だという視点もあるとは思うんですけれども、選別されたスタートアップが残っていったとしても、そんなに件数出せないと思うんですよ。特に初期のころ。一番重要な発明が生まれるころですよね。

白坂:そうですね。

溝田:当然その後も大きくなるにつれて色んなことやっていくんでしょうけれども、一番イノベーティブな時期って100件200件出せって言われてもそりゃ無理じゃないですか。かといって、知財っていうのはそういう人たちが戦ったり資金調達していく上で絶対必要不可欠なものなんで。技術の価値を高めていくにはやっぱり必要なのかなと思います。
じゃあそれは具体的に何かっていうと、最終的には①仮に裁判になっても勝てるような特許であることがひとつ。あとは当たり前の話なんですけれども、②公知の技術と比べて、ギリギリのポイントで取れているかっていうところなんですよ。で、これが意外とできてないことが多いと思うんです。
もちろん白坂先生も弁理士だし、僕も元弁理士だから分かるんですけど、技術的に正確な書面を作るっていうのは、弁理士さんのひとつの能力じゃないですか。スキルじゃないですか。発明をきっちり正確に捉えて、それをちゃんと文章化する、見える化する。これ、すごく重要なスキルで難しいんですけどね。それと、上の②は別の次元の能力なんですよ。
公知技術と比べてここだけがポイントだと。うちで開発してる製品は、AというポイントとBというポイントをダブルで捉えていると。けどこれをそのまま特許にしちゃうと余計なんですよね。ひょっとしたらAだけでも取れるかもしれないし、Bだけでも取れるかもしれない。それは書き方によっては分割すればいいやっていう話にもなるけど、分割したらダメなケースもある。A×Bでひとつのポイントになるって捉えられちゃうと、分割しても「Aだけ」とか「Bだけ」っていうのはできなくなっちゃう訳ですよね。なので、その辺のギリギリを捉える。そういった「いい出願」を、件数勝負ができない以上は、そういった質で勝負ですよね。僕はだから「量よりも質で勝負」派なんですよね。

白坂:なるべく広く、かつポイントを絞って。ひとつのアイディアから重要な特徴のポイントというかコンポーネントをちゃんと切り出して、確実に権利化しましょうと。

溝田:さらに変形例とか応用例をたくさん書けば、仮に裁判になっても十分戦える。例えば分割を残していくとか。件数を稼ぐにしても、そういうやり方ですよね。

白坂:溝田先生が仰っている数っていうのは、実は大きい幹としてはひとつで少ないんだけど、分割出願で枝葉を作っていくと実はけっこう増えていく「変化型」ですよね。ベースは少ないけど、幹には色んなピースが、発芽するタネがいっぱい入っている。そういう手法がいいよと。

溝田:そうですね、そういうイメージですね。それが世界で戦える知財力というものになっていくので。
じゃあ大企業は今後どうなっていくのか?っていうと、大企業もコンシューマービジネスからどんどんどんどん撤退していっていると。あるいはイノベーティブなことができないから、オープンイノベーションで他のと組んでイノベーションを起こそうとしているということで、今までとはちょっと違うかもしれないですよね。事業戦略自体が。使えるお金も多分限定されていくだろうし、特にコンシューマービジネスから撤退した場合、例えばソフトウェアとかソリューションビジネスというところになると思うんですけれども。そうなると今までのコンシューマービジネスと同じような特許戦略は取れないと思うんですよね。ポートフォリオを組んで、必須となるような特許をバーっと取っていくよりは、今言ったような「一件あたりの特許」というのが重要になってくると思うんですね。件数を出してそれなりに全てに質を求めるっていうのもすごく時間がかかるんですけど、その時間を、件数を減らして一件ずつ濃く注力してくっていう、そういうことを各企業の知財部とかは意識していかないといけないのかなと思いますね。

白坂:100本の弓矢じゃないと。

溝田:そうですそうです。むちゃくちゃ強い一本で。

白坂:なるほど。木の例で言えば、発明の幹を大事にしつつ、実は発芽するタネや枝葉がブワーッとある、というイメージですね。

溝田:イメージとしてはそういうことです。そういうものも蓄えていく。それが世界で戦える知財力だと思うんで。

白坂:抑止力ですよね。

溝田:どっちもあると思うんですよ。抑止力にもなるし攻撃にもなるけど、結局、両方いっぱいあった方がいいわけで。でもお金と時間の関係だと思うんですね、全てが。昔の大企業の特許戦略みたいに、すごいお金をかけて特許出願するっていう方法ではだんだんなくなっていくと。なおかつ知財部の人っていうのも、どんどんどんどん大企業でも減っていってるし。中小企業とかベンチャーには大企業みたいに何人も知財関係の人はいないし、予算も限られてるわけですよ。だから、「かけられるお金と時間」というのが変化してるんですよね。お金は減ってる。時間はまあ人数に比例するってことでいうと、時間も減ってるわけじゃないですか。そしたら「効率よくやりましょう」となりますよね。その中で最大限件数を出すっていうのは大事なんだけど、それよりも質を求める方に時間使った方がいいっていうことですよ。

白坂:発明の深みを高めるというか。知財ありきで特許を出すのではなくて、発明の内容をしっかり深掘りして。

溝田:そうです。だからそれは先ほどのポイント二つになりますけど、技術的に正確なことを書くのはもちろんだけど、①裁判で戦えるようにやっていくということと、②公知技術と対比した発明のポイントを意識するということですよね。変形例とか応用例をいっぱい書いていった方が、結局権利範囲が広く回収されるので。

:なるほど。特許出願1件の中でどれだけ発明の内容を充実させることができるか。特許出願の質が重要なのでござるね。特許を取ることはもちろんだけれど、権利として活用できるレベルにあるかどうかも大切。これを見極める力こそ、弁理士の先生の腕の見せどころなのでござるね。では、権利として活用できるレベルとはどういうことなのか。もう少し斬り込んでみるでござる。

権利として活用できる特許

企業価値は知財で測ることができるとは?

白坂:ユニコーンクラスが存在しなくなって、どんどん大企業に取り込まれている、みたいな動きもありますよね。ベンチャーへの投資額が減る中で、今後スタートアップのM&Aも増えてくるんじゃないかなと思うんですが、こうした状況下における中小企業の知財戦略はどういうところが重要になると思われますか?

溝田:今後重要なのは、権利行使だと思うんですよね。権利行使って色々あって、もちろん裁判とかライセンス交渉で使うっていうのもそうですけど、売却っていうのも権利行使の一環だと。まあ今は捉えてほしい、広義の権利行使。それでM&Aの時に、じゃあどうやってその買収する企業を評価するか。要するに投資金額と売り上げが見合わない企業がM&Aの対象になっていくわけじゃないですか。そうなった時に資産なんてないわけですよ。評価する上で。安く買い叩かれちゃうわけじゃないですか。でも当然高く売りたいわけですよね、ベンチャーとしては。知財は持ってる会社多いと思うんで、そこだけだと思うんですよね。対象になってくるのは。そうすると高く売りたい安く買いたいになってくるから利害は相互反するんですけど、やっぱり知財の評価っていうのが大事になるのかなと思いますね。
アメリカとかだと特許売買の市場があるじゃないですか。市場があるということは相場があるということなので。値段がつけやすいと思うんですよ。じゃあ日本の場合ってどうですか?

白坂:日本の場合、あまりないですよね。

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